【開催報告】2/4「SDGs実施指針改定 総括フォーラム」
2019年12月に改定された「SDGs実施指針」について、その改定のプロセスや内容、課題などの総括を目的として『SDGs実施指針改定 総括フォーラム 〜改定SDGs指針から読み解くSDGs達成への道筋〜』を開催しました。以下にフォーラムの内容をご報告します。
<日 時> 2020年2月4日(火)18時〜20時
<場 所> 東京大学 伊藤国際学術研究センター ギャラリー1
所在地:東京都文京区本郷7丁目3-1
<参加費> 無料
<言 語> 日本語
<共 催> (一社)SDGs市民社会ネットワーク、みんなのSDGs
<後 援> Future Earth Japan Hub
<進 行>
17:30 開場
18:00〜18:03 開会(挨拶:SDGs市民社会ネットワーク 大橋正明)
18:03〜18:15 SDGs実施指針改定のプロセスと内容(外務省地球規模課題総括課 吉田 綾 課長)
18:15〜19:15 SDGs実施指針改定へのコメント(SDGs推進円卓会議構成員:10名)
19:15〜19:50 会場からの意見や質問
19:50〜19:55 フォーラムの総括(SDGs市民社会ネットワーク 三輪敦子)
19:55〜20:00 閉会(挨拶:みんなのSDGs 藤田雅美)
<登壇者紹介>
・外務省地球規模課題総括課 吉田 綾 課長
・SDGs推進円卓会議構成員(50音順)
有馬利男氏、稲場雅紀氏、大西連氏、春日文子氏、
河野康子氏、近藤哲生氏、 根本かおる氏、
三輪敦子氏、元林稔博氏、山口しのぶ氏
*このフォーラムは一部地球環境基金の助成を受けて運営しました。
フォーラムの最初に共催団体「(一社)SDGs市民社会ネットワーク」共同代表理事大橋正明が挨拶として、改定指針のレビューと総括を行うこのフォーラムの重要性と今後も継続した議論の場づくりについて述べました。
以下、各登壇者からのご発表の概要を紹介します。
会場からの質問の回答も一部含みます。
<吉田 綾 氏>(外務省地球規模課題総括課・課長)
SDGs実施指針は、SDGs達成に向けた中長期的な国家戦略であると位置付けられている。その改定のプロセスでは、SDGs推進円卓会議や、本日出席されている円卓会議構成員の多くが参加された国連大学でのステークホルダー会議を通じて、ステークホルダーの役割や横断的な体制強化について議論がなされ、それらの提言をできるだけ反映させる形で改定作業を進めた。11月にはパブリックコメントを実施し、300件以上の意見が寄せられた(注1)。特に、教育やジェンダーについての意見が多く、円卓会議各委員からも個別にコメントをいただきつつ、関係各省との調整を経て、12月20日に改定版が採択された。改定指針ではステークホルダーの役割についての記述が大幅に増え、また「ユース」や「議会」、「ファイナンス」といった新たなステークホルダーの枠組みもできた。SDGsの広報啓発という点では、G20等を初めとする日本で行われる国際会議において日本の取り組みを「SDGsモデル」として積極的に発信した。
改定指針で述べられている「地域自治体」のステークホルダーとしての役割については、政府は内閣府地方創生事務局のもとで地域に寄り添いながらサポートをしている。具体的に2点述べる。1つは「SDGs未来都市」(注2)の選定である。地方自治体のビジョンをSDGsに沿って深めるモデル都市を選定している。もう1つは「地方創生SDGs金融」(注3)である。枠組みは検討会にて議論されているところだが、少子・高齢化が進む地域の経済活動をSDGsの観点で応援するスキームである。
PPT当日資料
<指針改定版概要> 外務省Webサイト[ JAPAN SDGs Action Platform ]よりhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/kaitei_gaiyou2019.pdf
<SDGs実施指針(改定版)の骨子についての意見募集の取り纏め結果について>(2019年12月20日:SDGs推進本部) 首相官邸Webサイトよりhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/pdf/pubcom_kekka_r011220.pdf
<SDGs未来都市などの紹介> 内閣府地方創生推進室Webサイトより http://future-city.go.jp/
<地方創生SDGs金融の自律的好循環形成に向けて> 内閣府 / 地方創生SDGs金融調査・研究会資料https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/kaigi/sdgs_kinyu2-3/sdgs_kinyu2-3_shiryo3.pdf
<有馬利男 氏>(グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事)
国連グローバル・コンパクト(GC)は2000年に発足し、10 の行動原則に賛同する世界14,000を超える企業・団体がネットワークの下でSDGsに取り組んでいる。日本では350の企業・団体が加盟している。GC全体としては、SDGsの主流化をメインテーマに、パリ協定の1.5℃目標と温暖化ガス排出ネットゼロ、およびジェンダーギャップ解消を柱としている。
日本のSDGsの状況については、認知と実態とが解離していないか。例えば、毎年行っている企業へのアンケート調査では「SDGsが経営陣に定着しているか」の設問に「はい」と答えた割合が増加傾向にあり2019年には77%に達した。素晴らしい成果に見えるが、実は、これはグローバル・コンパクトに加盟する大企業を対象とする調査である。一方で、関東経済産業局の中小企業を対象にした2018年の調査では、「SDGsについてアクションをしている、もしくは検討している」と回答した割合は2%であった(注4)。日本の企業総数は350万ほどで、このうち99.7%が中小企業であることを考えると、この調査からは、日本企業のほとんどはSDGsについてまだ何もやっていないと言える。また、SDGsに関するリスクを企業が開示するかも企業の本気度を知る上で重要である。その一つは気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の推奨している、気候変動リスクである。今、TCFDに登録している日本企業は200社を超えて、世界のトップである。素晴らしい状況であるが、一方で、有価証券報告書で気候変動リスクを開示しているのは日本上場企業3,300社のうち13%で、44%の米国の1/3しかないという報道もある。この様な現実をきちんと認識するところから出発しなければならない。
日本のSDGs推進方針がSDGsときちんと繋がっていないとの危惧がある。推進方針において、SDGsの目標レベルと現実との間にどれだけのギャップがあり、いつまでに何をしなければならないのかを明確にすることが、企業の取り組みを加速させるのではないか。改定実施指針の終わりにそれに関わる記述があるが、責任者と時間軸を明確にして進めていただきたいと思う。
<中小企業のSDGs認知度・実態等調査結果概要>(平成30年12月関東経済産業局)経済産業省関東経済産業局よりhttps://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/seichou/data/20181213sdgs_chosa_houkoku_gaiyo.pdf
<稲場雅紀 氏>(一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク政策担当顧問)
今回の指針改定で注目すべきは、この指針が実施される4年間にSDGsの中間年(2022〜2023年)が含まれるという点である。2030年へ向けた最後の3年間ほどはポストSDGsの議論が始まると考えられ、そのため今回の改定で本気度が試されると言える。
改定指針の内容として良かった点は、ジェンダー平等が優先課題の中に明確に書かれたこと。また、円卓会議が重ねて提言してきた、政府による達成度の評価の実施と国別2030年目標の策定が盛り込まれ、「バックキャスティング」の原則についても明記されたことである。バックキャスティングという概念は非常に重要であり、改定指針にこの文言が入ったことは肯定的に評価できる。併せて、フォローアップ&レビューに「政府としても2030年の目標達成に向けてSDGsの進捗状況に関する評価を行い」と記述されたことで、政府として達成度評価と目標設定を行う前提ができたと言える。
SDGsは次の2点、「貧困・格差をなくす」と「世界を持続可能にする」に集約される。そして、これらにマルチステークホルダーで取り組むということ。特に、SDG 16.7にあるように包摂的で参加型の意思決定の確保のため、政府が日本のSDGsモデルの中核とする3本柱の全てにマルチステークホルダーで取り組むことが重要である。例えば、柱の一つであるSociety 5.0のデジタル分野の中核は人工知能(AI)であるが、これに関連して昨年「人間中心のAI社会原則」が策定されたが、内閣府が設置し、この原則の起草にあたった「人間中心のAI社会原則会議」(注5)の構成員は主にアカデミアと大企業の上層部であり、市民社会や、障害者を含め、社会的に脆弱なコミュニティ構成員は入っていない。科学技術イノベーションはすべての人々に影響を及ぼすことから、あらゆる人々の意思決定への参加が重要である。
<人間中心のAI社会原則会議> 内閣官房Webサイトより https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jinkouchinou/
<大西 連 氏>(特定非営利活動法人自立生活サポートセンターもやい理事長)
もやいは生活困窮者の相談窓口をもつNPOで、今日実際に相談を受けた人は、数ヶ月前に出所をした、軽度の知的障害のある方で、累犯で窃盗を繰り返している。また、ある人は知的障害による障害年金を受給しながら障害者雇用で働いているが、体調の悪化により仕事を続けることが難しい状況にある。SDGsは誰のためにあるのか。それは、今日私が相談を受けたこのような人たちのためではないのか。
SDGsが策定されて5年目を迎えるが、このような委員会での議論と、相談活動とのギャップに混乱することがよくある。あらゆる貧困に終止符を打つとするSDGsに対し、日本政府はその目標を達成し得る政策を実行できていない。実態の評価についても、グローバル指標を採用していない。2030年までに日本の貧困・格差を解消するのは難しいと感じている。当事者やそれに近い人たちの声をどれだけ拾えているか、またはそういった場をどれだけ作れているのか。各ステークホルダーの役割に期待するだけではなく、その規模や資金といった詳細についても国がどう支えていけるかを明確にするべきである。あらゆる当事者が参画するステークホルダー会議のような場を設けることが重要である。
<春日文子 氏>(国立研究開発法人国立環境研究所特任フェロー)
「今後10年間での国やセクターを超えたSDGs達成のためには、日本国内に閉じていてはいけない」。また、「SDGsが、世界・地球社会・人間の倫理と責任に基づく共通の目標であることを忘れてはいけない」。この2点について、より強く認識すべきと思い、改定指針でももう一歩踏み込んだ言及がなされてほしかった。
アカデミアの立場から研究の項、さらにビジョンとファイナンスの項でも意見を伝えてきた。ビジョンについては、SDGsをその他の国連枠組み(パリ協定・仙台防災枠組・生物多様性条約愛知目標など)と総合して捉えるという表現が盛り込まれたことを歓迎している。SDGsのウェディングケーキモデルの土台である地球環境の悪化は経済や社会の崩壊にもつながることを踏まえ、地球環境問題や温暖化問題が危機的状況にあることに一定の言及がなされている。また、ファイナンスについても、気候変動対策について言及があった。イノベーションと変革に関しては、「技術的なものだけを偏重するのではなく、社会的なものを含むより広範な概念として扱うべき」との表現がなされた。一方で、8つの優先課題に省エネ・再エネと併せて「脱炭素化」をはっきりと位置付けて欲しかったが、最後まで提言し続けたものの、文言として反映されなかった(ファイナンスの項には記述されている)。環境目標については、1.5℃目標を掲げることが重要であり、1.5℃と2℃の違いは、科学の世界では大きく取り上げられている。
<河野康子 氏>(一般社団法人全国消費者団体連絡会前事務局長)
SDGsの進捗について、消費者の立場から話をしたい。「SDGs」というキーワードとカラフルなロゴの認知は広がっており、また、「誰一人取り残さない」というスローガンや持続可能性についても共感がなされている。課題とされる海洋プラスチックや食品ロスについては消費者の目に見えやすく、理解が広がっている。CO2排出や気候変動の問題は、間接的だが問題を認識でき、共感度が高い。そして、消費の選択肢の多様化が、個人のレベルでこれらを行動に移すきっかけとなっている。しかしながら一方で、当事者として向き合う機会の少ない、人権・差別・不平等・貧困といった課題は認識が広まりにくく、本質的な解決につながりにくい。
消費者の間で認知の広がるSDGsだが、改定指針やSDGsアクションプラン 2020では「今」行動する必要性が述べられており、例えばSDGsが社会活動の免罪符となったり、自己満足のためのSDGs宣言となってしまうことは避けるべきである。個々の達成目標には相反する内容もあり、都合よくSDGsが解釈されることに危惧を感じる。誰もが納得できる評価や指標の重要性が共通で認識されている。全国各地でステークホルダーが集ってSDGsの進捗評価をする機会を、意図的に創出することが重要であり、主体間連携による相乗効果を生み出しながら、SDGsを自分ごととして行動できる社会づくりを念頭に行動の10年のスタートとしたい。
<近藤哲生 氏>(国連開発計画駐日代表)
国連2030 アジェンダ第3節にある「我々は2030 年までに以下のことを行うことを決意する」の「我々」に皆さんは入っているか?もしくは、改定指針にある「我が国は、…(中略)…課題解決先進国として」の「我が国」に皆さんは入っているか?
指針改定にあたって、日本が世界のSDGsの強力な推進役として貢献する意思とともに、世界の発展が日本の発展に欠かせないと認識されている点が重要である。一方で、SDGs推進をどの程度国に依存するのか。もしくは、企業や市民社会が重要なステークホルダーとしてインプットを提供してきたのはなぜか。SDGsの実施体制を、どこまで国に任せるのか。UNDPは各国政府と協力し、貧困と不平等の相互に関連する課題の解決に取り組んでいるが、政府に任せるのではなく、市民社会や産業が自分たちの未来を思って行動するときに本当の意味で、開発のアウトカムが生まれると感じている。現在は「SDGsがどこまでできているのか」を考える上での体制(実施・モニタリング・意思決定)を本気で考えるべき時期を迎えており、それは行政や立法府のみの役目ではないということを全員が理解するべきだ。国の責任となるのは開発と平和の部分(開発の促進、継続した開発のための世界の安定化および人道危機や紛争の対策)であり、それはJICA、国連、世界銀行も共にきちんと行う。また、金融や地方自治体の参加も重要である。例えば静岡市では、地方金融機関がSDGsを進めるビジネスに優遇金利での融資を行ったり、SDGsアクションに取り組む個人預金者の金利優遇サービスも採用されたりしている。自治体や金融の動きにも注目しながら、SDGs達成への行動を自分ごとにするということを説明していきたい。
<根本かおる 氏>(国連広報センター所長)
国連広報センターが日本の皆さんへのSDGsの広報発信を担う中で、SDGs進捗状況については定点観測が必要だと考えている。「働く人の円卓会議」(注6)において、「SDGsに取り組んでいるか」といるテーマでオンライン・ディスカッションをナビゲートしたところ、3年前に2割ほどだった「YES」が今は7割ほどになった。SDGsに意識が高いであろう会議参加者のこの結果を社会にそのまま当てはめることはできないが、SDGsは確実に社会に広がっている。しかし、現状ではSDGs達成の目処は立っておらず、昨年に首脳レベルでSDGサミットが開催されたのに合わせて様々な進捗レポートが出ているが、目標と進捗状況との大きなギャップが明確になった。これを受けて、国連広報センターは昨年半ばから広報発信のギアを明確に変えている。
指針の改定の議論は3つの問題意識を持って臨んだ。1つ目は、アクションのスケールアップと加速化だ。点としての取り組みを線から面へとつなげる必要がある。例えば、国連が呼びかけた「SDGメディアコンパクト」というSDGsに熱心なメディアとのパートナーシップには日本から14社が加盟している。メディア・カンパニーとしてガバナンス・編集コンテンツ・パートナーの巻き込みも含めて横断的に取り組むというものだ。情報発信を一紙面・一番組を超えて組織的・制度的に促進することが重要である。2つ目は「若者」で、アクションの担い手として非常に重要である。高校生たちの大人顔負けのアイデア・パッション・行動力を感じている。現在の円卓会議構成員にも当事者としての若者の参画が必要である。また、日本の若者の、グローバルなネットワークへの参画も応援したい。例えば国連では「SDGヤングリーダーズ」の募集(注7)を開始しているが、これまで日本からの若者の代表がいなかったこともあり、是非日本の若者に積極的に応募してほしい。3つ目は、人類の存続を脅かしている気候危機。改定指針では「現状の評価」で気候変動について記述されているが、気候行動への言及が不十分である。これについても今後積極的に訴えていきたい
<イー・ウーマン:オンライン会議> イー・ウーマンWebサイトよりhttp://www.ewoman.jp/entaku/info/id/3579/times/3
<SDGヤングリーダーズ募集> 国連広報センターWebサイトよりhttps://www.unic.or.jp/news_press/info/36382/
<三輪敦子 氏>(一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター所長)
SDGsは、人権目標そのものだと考えている。国連のグテーレス事務総長は、「人権は空気のようなもので、それがなくては生きていけない」と言っている。失いかけて初めてその大切さがわかるということでもある。
指針改定の中で、8つの優先課題にジェンダー平等が盛り込まれたことを非常に評価したいし、それを実現した今回のパブリックコメントは画期的だったと考えている。ジェンダー平等が分野横断的課題であると確認されたことも重要だ。SDG 5にあるジェンダー平等はすべてのゴールの推進役である。「もしリーマンブラザーズがリーマンシスターズだったら、リーマンショックは起こらなかったかもしれない」という議論がある。男性が独占する意思決定の弊害を指摘した議論であり、女性が議論に参加することで思考が深まり慎重になり、無謀な決定を回避できるとする。この様に、ジェンダー平等には社会を変える力がある。また、今回の指針改定をきっかけとして、女性の貧困や女性間の格差にも目が向けられるようにと願っている。
生き残るのは変わることのできる社会であり組織である。変化をおそれる空気が日本の国内にはあるような気がすることがある。変わることを恐れず、将来、「あの危機はチャンスだった」と思えるような変革を起こす必要がある。
日本には縦割り行政という深刻な問題があり、これがアクションプランの実現にあたって大きな壁になっているのではないかと懸念している。様々なステークホルダーが参加する円卓会議の議論が、縦割り行政の弊害を克服する方向に貢献できないだろうか。そのためには参加するステークホルダーの幅を拡げる必要があるかもしれない。
<元林稔博 氏>(日本労働組合総連合会総合国際局長)
労働組合も市民社会のひとつとして、SDGs達成に努力を続けていきたい。指針改定について3つの視点でコメントをする。
1つ目は、指針改定の方向性について、進捗に合わせての改定は有益だったが、達成期限まであと10年しかないことの共有・認知の広がりが足りていなかった。また、今回の改定指針では評価と対策について言及の少ないことが残念であり、振り返りと対策に基づいてアクションプランを見直しているのか、という疑問が残った。労働組合はこれらについて、他のステークホルダーと連携していくことを明言する。
2つ目は、円卓会議の機能の強化について。改定指針ではマルチステークホルダーの参画が重要だと明言されており、円卓会議のより頻繁な開催や課題分野別会議の実施は大切だと感じている。具体的な取り組みを議論する場として円卓会議を位置付け、より実施質的な行動につなげていく必要がある。
3つ目はアプローチとレビューの強化について。SDGsはすでに具体的な実行をしていくフェーズにある。進捗状況の評価を公表することで透明性が高まり、各ステークホルダーの参加が高まることが期待できる。
<山口しのぶ 氏>(国連大学サステイナビリティ高等研究所所長)
昨年9月に国連大学で実施されたステークホルダー会議には、企業・自治体・市民社会・労働組合など200人以上が参加した。その結果は提言書にまとめられ、円卓会議構成員有志によってSDGs推進本部に提出された。本フォーラムはそれに続き、多様なステークホルダーが参加する貴重な場となっている。改定指針でマルチステークホルダー連携の重要さとSDGs達成への多様な取り組みが言及されたことについて評価をしている。
昨年のSDGサミットでは各国の取り組みがSDGs達成への道筋から外れているという指摘がなされ、行動の加速化が強調された。特に、グローバルアクション、ローカルアクション、ピープルアクションの3つの重要性が指摘された。このうちローカルアクションに関連して、国連大学は昨年12月に金沢工業大学と協力し、「北陸SDGsステークホルダーミーティング2019」を開催した。
日本のSDGs達成への取り組みのデータとして、2019年のベルテルスマン財団とSDSNによる報告書では、「教育」、「イノベーション」の分野においては達成度合いが高いとされる一方で、「ジェンダー」、「生産・消費」、「気候変動」、および「実施手段」の4分野では達成度合いが低いと指摘されている(注8)。エビデンスに基づいたリサーチとアクションを実施する必要がある。
人材育成も大切である。ESDについて新たな国際枠組みが採択され、方策が検討される中で、国連大学としても174カ所のESDに関する地域拠点(RCE)を認定しており、このような地域におけるが重要な役割を担うことが期待される。ユースが果たすことのできる重要な役割についてはデータも示されており、活躍が期待される。
<SDG Index and Dashboards Report(英語)> ベルテルスマン財団/SDSN レポート報告Webサイトより https://sdgindex.org/
フォーラムの総括
<三輪敦子>(一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク共同代表理事)
本日のフォーラムでは、マルチステークホルダーという言葉が何回も出てきた。「みんなで一緒に」連携することは大変重要だが、趣旨と目的によっては、「みんなで一緒に」だけでは物事は進まない可能性がある。SDGsは国連で各国政府がコミットした目標であり、実施の第一義的責任は政府にあると言えるだろう。政府がその責任を果たしてこそマルチステークホルダー間の連携が強化され、互いの強みが相乗効果を発揮できると思う。そして、そのことがSDGs達成のための行動の加速化につながるのではないか。
パブリックコメントの総数が前回の2016年から大幅に増え、303件に達したことは重要であり、このモメンタムをマルチステークホルダーによる丁寧な議論と実践に繋げたい。その際には、取り残されている人や社会的に脆弱な状況にある人の当事者性を大切にした議論が重要である。SDGs達成にはゲームチェンジやシステムチェンジが求められており、そのためには何に重点を置いて変革を進めるべきかを理解するためのギャップ分析が不可欠だ。構成員からの発言にあった「SDGsの認知は広がったが、行動がともなっていない」という指摘は重要である。すべてのSDGを理解している人は少ないだろう。どんな行動が必要かをわかりやすく発信する必要性も感じている。
質疑応答では、気候変動とジェンダーの話題も出た。今年はジェンダー平等を謳った「北京宣言・北京行動綱領」25周年にあたり(北京+25)、国際会議も予定されているが、UN WOMEN(注9)は、北京+25の重点課題の1つに気候変動とジェンダーを挙げている。昨年11月に北京以降の25年を振り返るアジア太平洋地域の会議に出席する機会があったが、太平洋諸国の女性たちが最重要課題として強調したのが気候危機とジェンダーの問題だった。このような世界の状況に目を開き、自らの生活を振り返り、取るべき行動を可視化し共有できるような方向性が必要ではないか。
最後に、「誰もが市民」という視点を強調したい。円卓会議構成員や会場の皆さまは所属も取り組んでいる課題も様々だが、皆、所属を離れれば、一人の市民である。安全な水、食べ物、衛生的な暮らしは、誰にとっても大切であるし、誰もが大切にされ、居場所がある社会が大切だ。SDGs達成に向けた政府の責任を確認しつつ、「誰もが市民」という視点をもち、実施指針改定のモメンタムを大切に、2030年には持続可能な開発への変革を実感できるようにしたい。これからの4年が正念場である。
UN WOMEN 日本事務所 Webサイト https://japan.unwomen.org/ja
国連ウィメン日本協会 Webサイト https://www.unwomen-nc.jp/?p=1004
フォーラムの最後に、共催団体「みんなのSDGs」藤田雅美より、今後もマルチステークホルダーでの対話を続けていくこと、またそのための機会をセクター連携で作っていくことが述べられました。
SDGs市民社会ネットワークは、SDGs達成に向けて今後とも対話の場を作り、情報発信を続けていきます。
コメント