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「国連ハイレベル政治フォーラム」(HLPF)は「つづく世界、つづく日本」への 日本の歩みを検証できるか: HLPFへの市民社会の取り組み


(まとめ)

2017年7月にニューヨークの国連本部で行われる「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」(HLPF)。今年は日本も評価対象国になるということで、政府をはじめ、様々なセクターがこれに向けて取り組んでいます。市民社会も、日本のSDGs進捗状況に関する独立レポートをまとめたのをはじめ、5月11日にはSDGs推進本部事務局とNGOの意見交換会を開催、5月22日には第3回SDGs推進円卓会議に参加して政策提言を行いました。HLPFについて知りたい人に向けて、以下、まとめてみました。

 

1.「国連ハイレベル政治フォーラム」(HLPF)って?

2016年、世界中で「持続可能な開発目標」(SDGs)の実施が始まりました。SDGsは、2030年までに極端な貧困をなくし、持続可能な世界への道筋をつける野心的な目標ですが、これが世界および各国レベルでどれだけ進んでいるのか、また、課題は何かを毎年1回検証するのが国連の「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」(HLPF)です。毎年閣僚会議が開催され、20-40カ国が「自発的国別レビュー」の対象となります。また、4年に1回、首脳会議が開催されることとなっており、次回は2019年です。本年(2017年)のHLPF閣僚会議では、日本を含む44カ国が「自発的国別レビュー」の対象となっています。

豊かな地球を次世代に残す、そんな大きな使命を帯びたSDGsのレビューですから、本来、相当包括的に行われ、しかるべき勧告なども出されるべきです。たとえばOECD開発援助委員会(DAC)の「ピア・レビュー」や、国連人権理事会の人権レビューなどは、国別に相当包括的なプロセスで行われています。しかし、SDGsのレビューについては、それほど重いプロセスではなく、昨年の場合は、どちらかというと通り一遍で、政府の発表を追認する傾向が見受けられ、市民社会からは批判の声も大きく聞かれました。本年は日本も自発的レビューの対象となるということで、私たちSDGsジャパンとしても、HLPFを活動の主要なターゲットとして取り組んでいます。

 

2.HLPFに向けて、市民社会には何ができるか?

昨年のHLPFで「自発的国別レビュー」の対象になったのは、中国・韓国やドイツ・フランスなど22カ国。本年度の対象国は44カ国に上ります。発表はHLPFの閣僚会議で、閣僚や高官が行います。また、一国当たりの時間は15分程度しかありません。その結果、HLPFのレビューは各国の自慢大会のような様相を呈することになります。時間をかけてレビューをし、権威ある形で提言や勧告を受ける、ということにはなりません。

その中でも、HLPFのレビューに実効性を持たせようと、各国の市民社会は、以下のようなことを積極的に展開しています。

(1)各国の市民社会による独立レビューの実施

各国市民社会は、「お手盛り」になりやすい政府の報告書に対して、現場の声を反映して、市民社会の視点から独自のレビューを行い、報告書をまとめてサイド・イベントなどの場で積極的に発表を行っています。

(2)政府のレビュー・プロセスへの積極的な参加

各国の市民社会は、独自のレビューを行うだけでなく、政府のレビュー・プロセスに積極的に参加して意見を表明し、市民の意見を政府のレビューに入れさせる取り組みを行っています。

(3)メジャー・グループによるレビュー

「持続可能な開発」に関連する国連の会議には、「若者・子ども」や「先住民」「女性」「NGO」「労働組合」といった9つの「メジャー・グループ」およびその他のステークホルダーの参加と発言が認められています。これらメジャー・グループは世界レベルでのSDGsの進捗について独自のレビューを行い、HLPFでの発言権を有しています。

 

3.日本の市民社会の取り組み(1)=市民社会によるレビューの実施=

日本政府は6月中旬、国連のHLPFに関するウェブページにSDGsの進捗報告書の「キー・メッセージ」を発表しました。そのタイトルは「『パートナーシップのための官民アクション』(PPAP)を通じたSDGs達成への日本の努力」。この「PPAP」はもちろん、昨年下半期に世界的に流行した「PPAP」に引っ掛けたものです。

日本政府が「PPAP」を引っ提げて日本の努力を世界に普及している間にも、SDGsゴール16にかかわる日本の「報道の自由」ランキングは下がり続け、少子高齢化に十分な対策が打てないままに地方の持続可能性は危機にさらされ、ジェンダー指数も下がり続けるままとなっています。SDGsジャパンは、こうした状況に関して、同ネットワークの分野別ユニットに参加するNPO/NGOの協力を得て、5月22日、独立レビュー報告書「SDGsに関する日本の現状と政策・実施メカニズムの在り方」をまとめました。

SDGsに関する日本の現状と政策・実施メカニズムの在り方 (日本語版) /(英語版)

この報告書は、7月のHLPFの場でも世界の市民社会のサイド・イベントなどで積極的に活用し、SDGsに照らした日本の現実をしっかり伝えてこようと考えています。

 

4.日本の市民社会の取り組み(2)=政府と市民社会との対話の継続=

市民社会のもう一つの努力が、政府が主導する国別レビュー・プロセスへの参加を通じて、日本で生じている現実や現場の声を政府の報告書や発表に反映させるための「対話プロセス」です。SDGsジャパンは、以下の公式の対話および非公式の対話チャンネルを通じて、市民社会としての考え方を政府に伝え、SDGs達成のための政策提言も行ってきました。

(1)5月11日:HLPFに関するNGO・外務省意見交換会

5月11日の午前10時~11時30分、東京の外務省本庁舎にて「HLPFに関するNGO・外務省意見交換会」が開催されました。NGO側からは37団体38人、外務省側からは、政府「SDGs推進本部」の事務局を務める国際協力局(地球規模課題審議官組織)地球規模課題総括課の横地晃課長、堀田真吾首席事務官らが参加、SDGsにかかわる7つの分野、18の課題について、活発な討議が持たれました。外務省側からは主に横地課長が発言しました。その答弁は誠実なものでしたが、SDGsの具体的な推進体制や予算などの課題については、十分に踏み込んだ回答は得られず、逆に市民社会の側も、詰めきれずに終わったという感触もありました。意見交換会の議事録は以下の通りです。

(2)5月25日:第3回SDGs推進円卓会議

NGOと外務省の意見交換会から2週間後の5月25日、政府がSDGs推進に当たって各ステークホルダーから広く意見を聞く「SDGs推進円卓会議」が開催されました。経済界や労働組合、消費者団体、科学者コミュニティなど合計14名の委員で構成されるこの「円卓会議」に、市民社会は3名のプレゼンスを持っています。(1)の意見交換会は外務省だけでしたが、こちらはほぼ全省庁の担当官僚が参加しています。

この円卓会議では、議題はa) HLPF、b) SDGsの地方展開、の二つでした。a) については政府からHLPFでの発表内容と報告書の概要が資料配布され、説明がありました。ここからわかったのは、HLPFの発表も報告書も、国内NPO、国際協力NGOともにほとんど触れられておらず、市民社会がSDGsに向けて現場でどのような活動をしているかということがほとんど認識されていないのではないか、ということです。また、もう一点、政府の発表、報告書ともに、国際的に重要とされている点について強調したり、国際的に多くの人にどう共感を持たせるかに苦心したりするということがほとんどなされていない、ということもわかりました。市民社会側としては、ぜひ市民社会の取り組みにもっと触れてほしい、ということを明確に要望しました。

SDGsの地方展開については、「環境未来都市」構想の発展形といった形で、建築・省エネルギー機構の村上周三理事長が講演を行い、その後各委員から意見表明がありました。SDGsはすぐれて日本の課題であり、特に地方において、日本の「持続可能性」は相当、脅かされています。しかし、現状では、各省庁の担当者はほぼ「国際課」「国際協力室」といった国際関係の部署で、「日本のSDGs達成」は、文科省のESD(持続可能な開発のための教育)など、一部の省庁の一部の課題以外、議題となっていません。これらの点はすべて円卓会議にて市民社会委員から述べましたが、まだ一朝一夕変わるところまでは行っていないようです。

第3回SDGs推進円卓会議の議事録・式次第等は以下から閲覧できます。

(3)SDGs推進本部開催と公明党SDGs推進委員会

政府は上記の(1)(2)の2回の対話などから、ある程度意見を取り入れ、6月9日に安倍晋三総理の出席のもと、推進本部の会合が開かれました。安倍総理は我が国におけるSDGsの3つの方向性として、a) 働き方改革、b) 地方でのSDGs推進、c) 民間セクターとの連携強化、を打ち出しました。残念なことは、推進本部自体はわずか15分程度で終わり、実質的な討議は全くなされなかったことです。また、NGO/NPOや市民社会といった言葉はほとんど出てきませんでした。

6月12日、通常国会の会期中に、公明党SDGs推進委員会が、HLPFに向けた最後の機会ということで、NGO/NPOや国連機関、科学者コミュニティの代表など20名を招いてヒアリング会合をしました。こちらには、外務省をはじめ各省庁が集合し、HLPFまであと1か月を切ったところの日本の方向性について討議しました。いずれの会合でも、市民社会は他セクターより積極的に提言や代案を提起してきました。これらは中長期的には非常に意味のあるものなのですが、一方で、もう少し具体的で彼らの発想に近いものをもっていって提案しないと、具体的な成果を上げるのは難しい部分もあるな、と思いました。

 

5.結論:HLPFに向けて

HLPFは7月10日から19日にかけて、ニューヨークの国連本部にて開催されます。最後の3日間が閣僚会議、日本の発表もこちらで行われます。日本の市民社会も、サイド・イベントの開催や、会合への参加を予定しています。

私たち日本の市民社会の存在やその主張などについては、日本政府として、積極的に取り上げようという意欲はあまり見えませんでした。市民社会の政策提言ポイントを提示していくとともに、私たちNGO/NPOが普段、現場でどんなことをやっているのかをしっかり伝えていく必要があるかと思います(文責:稲場雅紀)。

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