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SDSN「持続可能な開発報告書2024」へのコメント

6月25日、SDGsジャパンは「持続可能な開発報告書2024(SDR24)」について、大橋正明共同代表理事によるコメントを発表しました。

 

SDSN「持続可能な開発報告書2024」へのコメント

~高所得国と低所得国の間のSDGs達成の格差が一層拡大し、

全体的に貧困と飢餓が悪化、日本の達成指数は僅かに改善~


はじめに

コロンビア大学のジェフリー・サックス経済学教授ら数名の専門家によって、世界全体と各国のSDGsの達成状況を指数化・順位付けした年次報告書「SDGsと国連未来サミット:持続可能な開発報告書2024(以下、SDR24)[i]」が、6月17日、「持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)」がスペインのリスボンで開催した「『未来のための協定』への道を開く」という国際会議で公表された。この「未来のための協定」は、今年9月にニューヨークで開催される国連「未来サミット」[ii]で採択予定の文書名で、本報告書の第一章には、この協定に向けた提言が掲載されている。


1.世界のSDGsは後退

今年の報告書の冒頭の要約で以下の5点を重要として特記している。このうち1と2はSDGsの達成がほぼ困難であることを示し、3から5はSDGs実現のために必要な改革を訴えている。特に4は、国連中心の多国間主義の重要性を強調し、このために国連を中心とした多国間主義についての新たな指標を作成して分析しており、この報告書の筆者たちの危機感が良く示されている。


  1. SDGsの169のターゲットを世界平均で見ると、2030年までに達成可能なのは16%のターゲットだけで、残り84%は進捗が限定的であるか、後退している。

  2. SDGsの達成ペースは国グループによって大きく異なる。北欧諸国は引き続きSDGsをリードしており、BRICS諸国[iii]は大きな進歩を遂げている一方で、貧困国や脆弱国は大きく遅れをとっている。

  3. 持続可能な開発は、依然として長期的な資金の投資課題である。グローバルな金融アーキテクチャーの改革は、これまで以上に急務である。

  4. グローバルな課題の解決にはグローバルな協力が必要である。バルバドスは、国連中心の多国間主義へのコミットメントで最上位にランクされ、米国は最下位である。

  5. 食料と土地の制度に関するSDGsのターゲットは、特に軌道から外れている。SDR24 は、持続可能な食料と土地の制度の達成に向けた以下の3つを評価する。

①過剰消費を避け、動物性たんぱく質の消費を制限する

②高い需要増が望める生産物や分野に投資する

③森林破壊を止める包括的で力強く透明なモニタリング制度を実施する


今年の世界のSDGs達成指数は、表1にあるように昨2023年の66.7点から0.4点減少して66.3点となり、二年連続で世界全体のSDGs後退が示された。この後退は、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵略や、2023年10月から始まったガザでの武力紛争などが、世界の持続可能な開発に与えた負の影響を反映していると考えられる。


このままではSDGsは目標の2030年までに世界全体で達成できないことは、これらの数字から確実に見える。2019年から2024年までの5年間で世界指数の増加は僅か0.3点、2022年までの3年間でも1.2点が増えたに過ぎない。しかし達成の100点までの差は32.8~33.7点あり、残り6年間でこの差を埋めてSDGsを実現するためには、今後毎年5.5点以上の増加が必要だ。しかし国連の安全保障理事会の機能不全で、ウクライナやガザに加えて世界各地で武力紛争が続いている一方、気候変動を含めたSDGs実現のために必要十分な資金は供給される見込みは立っていない。


表1:世界と日本のSDGs達成指数の動向 出典:SDR24 から筆者作成

発表年

世界平均の

達成指数

世界の前年

との点差

日本の順位(国数)

日本の

達成指数

日本の前年との点差

2019

66.0

-

15位(162)

78.9

-

2020

66.8

+0.8

17位(166)

79.2

+0.3

2021

66.8

0.0

18位(165)

79.9

+0.7

2022

67.2

+0.4

19位(163)

79.6

-0.3

2023

66.7

-0.5

21位(166)

79.4

-0.2

2024

66.3

-0.4

19位(167)

79.9

+0.5

 

2.先進国と低所得国・脆弱国の間の格差拡大、大国の多くも後退

さらに悪いことに、2015~23年にかけて欧州を中心にした高所得国と低所得国の間のSDGs格差も、拡大傾向であることが図1に示されている。この期間に高所得国のSDGs達成指数は緩やかながら毎年増加しているが、世界平均は微増もしくは停滞、対照的に低所得国のそれはここ数年僅かずつ減少している。つまり、高所得国とのSDGs進捗における格差が一層拡大しているのだ。


なおこの拡大するSDGs格差を支えている冨の格差について、国際NGOのオックスファム(OXFAM)が毎年1月のダボス会議の時期に報告書を発表している。今年発表された報告書「不平等株式会社」[iv]では、以下のようにその深刻さが指摘された。


  • 2020年以降、世界で最も裕福な5人の富豪の資産は2倍以上になっているが、世界の約50億人の富は減少している。

  • 世界で最も裕福な1%の富裕層は、世界の金融資産の43%を所有している。

  • 世界で最も影響力のある大企業1,600社以上のうち、労働者に生活賃金を支払うことを公約し、バリューチェーンにおける生活賃金の支払いを支援している企業は、わずか0.4%である。


SDR24 に立ち戻ると、その達成指数の最下位の国々の大半は、紛争が続いているか、紛争の深刻な影響が及んでいるサブサハラアフリカ諸国が主で、実際に最下位167位から順に南スーダン、中央アフリカ、チャド、ソマリア、イエメン、アフガニスタン、コンゴ民主共和国、そして159位のスーダンと並んでいる。なおロシアの侵攻が続くウクライナは依然上位に位置しているが、前年の38位から44位に6ランク下がり、指数も1.7点減少した。

また世界の大国である米国・ロシア・中国も、それぞれ39位から46位、49位から56位、56位から68位とランクを大きく下げたことも特徴だろう。ただ同じ大国のインドは、112位から109位に上昇した。


図1:2015~23年の高所得国と低所得国などのSDGs指数の平均値と世界平均の変化


3.悪化する世界の貧困と飢餓の状況

全ゴールの達成状況を地域や所得レベルの国グループなどで示した図―2で、SDGsのゴール1(貧困)と2(飢餓)について注目してみよう。


貧困は前年の報告書ではラテンアメリカ・カリブ海地域だけが悪化していたが、今年は数千万人の難民・避難民を生んでいるウクライナやパレスチナ、シリアなどが含まれる東ヨーロッパ&中央アジアと中東・北アフリカが加わった。特に東ヨーロッパ・中央アジアの貧困は、前年の評価が「課題は残る」がSDGs達成見込みと見做されていたが、今年は一段低い「顕著な課題が残る」とされた。なおオセアニア、小島嶼開発途上国、サブサハラ諸国、そして低所得国では貧困が最低ランクの「深刻な課題が残る」に留まっていることにも注意を払う必要がある。


飢餓についても、全体的に悪化している状態が見て取れる。昨年も今年も全ての地域やグループで状況は「深刻な課題が残る」か「明確な課題が残る」だが、昨年はその変化の方向が「後退」なのはオセアニアだけだった。しかし今年は中東・北アフリカが「後退」に加わり、昨年は3つあった「穏やかに改善」が悪化し、「後退」の2つを除く残り全ての地域やグループが「停滞」になっている。


図―2:地域及び所得別国グループにおけるSDGダッシュボード 出典:SDR24 p.23

(SDGs achievement=SDGs達成見込み、Challenges remain=課題が残る、Significant challenges remain=顕著な課題が残る、Major Challenges remain=深刻な課題が残る、On track=目標達成見込み、Moderately Increasing=緩やかに改善、Stagnating=停滞、Decreasing=後退)


4.日本はコロナ前の状況に戻っただけで、SDGs達成の見込みは立たず

表1と図3にある日本に目を向けると、これまで続いていたランキングの下落が久しぶりに止まって2022年と同じ19位に上昇したが、指数の数値はコロナが始まった2020年の状況を示す2021年と同じに戻っただけで、SDGs達成には程遠い。


2019年から2024年までの5年間の指数の伸びは僅か1.0点であり、2030年までの残り6年間で30.1点上昇することは不可能だ。つまり、日本もSDGs達成はできない。ちなみに隣の韓国は、2022年の27位から前年は31位、そして今年は33位に順位を下げている。


なお17の目標のうち日本はゴール4の教育とゴール9の産業はこれまで緑色の「SDGs達成」だったが、今年は図3にあるように教育が一段階下がった「課題が残る」となった。一段階下がった原因について、国際学習到達度調査(PISA)の2022年度の結果が反映されたことが理由であると、メディアは伝えている。PISAの結果に加えて、日本の教育には学校教育における「質」と外国にルーツを持つ子どもの排除、そして成人の非識字という三つの深刻な問題もある、と日本の教育協力NGOネットワーク(JNNE)は指摘している[v]


また前年からもう一つ変わったのはゴール2の飢餓の傾向が、前年の停滞から後退に変わったことである。詳細な理由は現段階では不明だが、SDRの以下の2つの指標の値やそれらに対する評価が低下したことによると思われる。


  1. 食料の持続可能性を示す「人間栄養段階」の数値(2.0がベスト、3.0が最悪)が、」前年の報告書では2017年のデータとして2.4だったが、本年は同じ2.4だが2021年のデータになり、今後の改善の見込みが薄いと判断された可能性があること

  2. 1ヘクタール当たりの穀物の生産量が、前年は6.8トンだったが今年は6.3トン と7.4%も減少したこと。


図3:日本のSDGsの達成状況(ダッシュボード)と方向性(トレンド)

出典:SDSN 24. P.252

(SDGs achievement=SDGs達成、Challenges remain=課題が残る、Significant challenges remain=顕著な課題が残る、Major Challenges remain=深刻な課題が残る、On track=目標達成見込み、Moderately Increasing=緩やかに改善、Stagnating=停滞、Decreasing=後退)


5.まとめ

2020年から三年間続いた新型コロナ感染症のパンデミック、そしてその間や直後に始まったロシアのウクライナ侵攻やガザで続く武力紛争などによって、SDGsの2030年までの達成は不可能に思える。しかしより根本的で深刻な問題は、こうした出来事を予防できないグローバルガバナンスの現状であろう。


2024年9月にニューヨークで開催される「未来サミット」は、SDGsの実現と国連を中心としたグローバルガバナンスの根本的な強化を目指した国連の努力であり、私たちもそれに賛同する。


しかしそこで予定された「未来のための協定」が採択されるだけでは、この世界の現状は容易に変わらないだろう。それゆえ私たちはあらゆるところで、一層高く声を上げ、SDGsが希求する誰も取り残さない続く世界の実現をさらに強く求めていく必要がある。

(以上)


[i] SDSN 2024, Sustainable Development Report, 2024

[iii] BRICS諸国:BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国だが、この報告書ではそれに加えて「BRICS+」としてアルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)が加わった11ヵ国グループも示されている。

[iv] OXFAMの不平等株式会社報告書:https://www.oxfam.org/en/research/inequality-inc

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