【SDGs Blog】今後の気候変動対策のために~IPCC報告を踏まえて~

SDGsジャパンの事業統括ユニットの会合で進行役を務めていただいているNPO法人環境・持続社会」研究センター(JACSES)の遠藤理紗さんにエッセイ「今後の気候変動対策のために~IPCC報告を踏まえて~」を寄稿いただきました。


※本エッセイは9月16日にメールマガジン「未来コトハジメNEWS」の巻頭コラム「ミラコト・サロン」に寄稿された原稿を加筆修正いただきました。

 

8月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第I作業部会報告書(自然科学的根拠)が公表されました。今回、地球温暖化における人間の温室効果ガス(GHG)排出の影響について、初めて「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」という断定的な記載となりました。2011~20年の世界平均気温は、1850~1900年と比較して約1.09℃高く、温暖化が熱波や豪雨等の極端な気象発生に影響を及ぼしていることも示されました[1]


日本は2050年に温室効果ガス排出実質ゼロ/カーボンニュートラル達成を宣言し、2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)を表明しました。そのため、エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画が見直され[2]、これらの内容は目標と整合的であることが求められます。日本ではエネルギー由来のCO2排出が8割以上を占めますので、あらゆるセクター・家庭・地域等の脱炭素化とそれを後押しする政策やファイナンスは、国内対策における一丁目一番地です。気候変動に関する国際的イニシアティブに対応する企業も増えていますが、Science Based Targetsイニシアティブ(SBTi)が企業のGHG削減目標の設定基準を1.5℃に引き上げる戦略を発表する等、民間にも更なる対策強化が期待されますので、まず自分たちの脱炭素化・CO2削減を進めることは極めて重要です。


しかし、削減が必要なのはCO2だけではありません。今回のIPCC報告では「人為的な地球温暖化を特定の水準に制限するには、CO2の累積排出量を制限し、少なくともCO2正味ゼロ排出を達成し、他の温室効果ガスも大幅に削減する必要がある」1と示されています。例えば、温室効果も高く増え続けているメタンについて、国連環境計画(UNEP)と短寿命気候汚染物質削減のための気候と大気浄化の国際パートナーシップ(CCAC)が今年5月に “Global Methane Assessment”[3]を発表しました。その中で、世界のメタン排出の半分以上を占める人為的に発生するメタン排出(主に化石燃料・廃棄物・農業)を、現在利用可能な対策を活用して2030年までに約1億8,000万トン/年(45%相当)削減できる可能性があると報告されています。併せて、同報告書は、これが実現できれば2040年代までに0.3℃近く気温上昇を抑えることが可能であるため、1.5℃目標達成にも貢献する費用対効果の高いステップであるとも指摘しています。


このような新たな科学的知見に基づいて、世界でも取組が進んでいます。国連欧州経済委員会(UNECE)が8月に発表した気候変動対策に関する提案[4]では、短期的な行動の1つとしてメタン対策が推奨されています。米バイデン政権も、4月の米中共同声明[5]にてメタンや他の温室効果ガス削減への協力について言及し、米バイデン政権は前政権で廃止されていたメタン排出規制の合同決議案に署名する等、欧米を中心に対策強化の動きが加速しています(8月末に来日したジョン・ケリー米気候問題担当大統領特使がメタン排出削減の新たな国際枠組を検討していると述べたとの報道もありました)。日本政府もカーボンニュートラル表明の際には「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」[6]と述べています。なお、気候変動は地球規模の課題であり、今後排出が増える国々に対する海外支援の展開も重要な貢献です。


社会ではしばしばフリーライダー(Free Rider)[7]が問題になります。気候変動で考えると、パリ協定において、自らは気候変動対策をとらずに他国の排出削減によってもたらされる利益にただ乗りする国が増えると、世界全体が協調して取り組むという枠組の根本が崩れ、その効果が大きく減退することが懸念されます。民間でも同じで、頑張って対策をとっている人々や組織が損をしないように、やったふりをして利益を享受するだけの人々や組織を極力防がなければなりません。私はいつも、気候変動で「誰一人取り残さない」ために、すでに起きている悪影響への適応策において、資金などのリソースに乏しく気候変動の影響を受けやすい社会的脆弱層へ配慮する必要があると述べています。それとともに、「誰一人取り残さない」という観点からは、気候変動対策においてもフリーライダーを防ぎ、対策を頑張った人がきちんと利益を受けられるような社会にしていくことも重要ではないでしょうか。

[1] 環境省 http://www.env.go.jp/press/109850/116628.pdf [2] 以下の通り、10月4日までパブリックコメントが募集されています。 経済産業省 https://www.meti.go.jp/press/2021/09/20210903003/20210903003.html?from=mj 環境省 https://www.env.go.jp/press/109931.html [3] UNEP https://www.unep.org/resources/report/global-methane-assessment-benefits-and-costs-mitigating-methane-emissions [4] UNECE https://unece.org/circular-economy/press/bold-action-energy-can-deliver-climate-objectives-and-sustainable [5] U.S. Department of State https://www.state.gov/u-s-china-joint-statement-addressing-the-climate-crisis/ [6] 資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_01.html [7] 活動に必要なコストを負担せずに利益だけを享受する(ただ乗りする)者を指します。

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