Sustainable Development Report 2021 の分析:SDGs進捗の世界的後退
6月14日、持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)と独ベルテルスマン財団は「Sustainable Development Report(持続可能な開発報告書)2021」を発表した。
(報告書はこちら:英語)
本報告書は、冒頭に深刻な状況認識から始まっている。
「新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、世界のあらゆるところで持続可能な開発の後退をもたらしている。2015年にSDGsが採択されて以降初めて、2020年のSDGsの世界各国の平均点は、前年よりも減少した。減少の主な原因は、貧困率の増加とパンデミックの悪化がもたらした失業である。国際統計のタイムラグのために2020年のデータ数値の多くが揃っていないことから、本年の報告書では、世界のSDG進捗状況の遅れは低く見積もられていると考えられる。このパンデミックは、持続可能な開発の経済、社会、環境の三つの面に影響を及ぼしている。各国政府は最優先課題として、非医薬品による対策と世界的なワクチンへのアクセスを通じたこのパンデミックの抑制に釘付けされていると考えられている。このパンデミックの猛威が続く限り、持続可能な開発と経済復興は望めないかもしれない。」
日本のSDGsの点数は、前年の79.2点から79.8点に上昇したものの、順位は昨年の17位から18位に後退した。前年から今年にかけて日本を飛び越して前進したのは14位のクロアチア(前年は19位)と15位のポーランド(前年は23位)で、逆に日本より後退したのは、16位から23位になったニュージーランドである。
日本のSDGsのゴールごとの評価の変化を示したものは以下の通りである。多くの箇所で、日本のデータの不備や古さが目立っている。
<Sustainable Development Report 2021:国別プロファイル(日本)より抜粋>
17のゴールのうち13のゴールの評価は前年度と変わっていない。取り組みが不十分だとされているのは以下である。
ゴール5 :ジェンダー平等
ゴール13:気候変動
ゴール14:海の生物多様性
ゴール15:陸の生物多様性
ゴール17:パートナーシップ
大きく悪化したのはゴール15(陸の豊かさも守ろう)で、前年が「穏やかな改善」だったのが、今回は「悪化」となった。この主な理由は、生物多様性にとって重要な保護された陸地の平均面積の1点の減少と、同じ内陸水面の平均面積の4.1点の減少に起因する。
前年の「穏やかな改善」から「順調に改善」に成果を見せたのは、ゴール1(貧困をなくそう)で、絶対的貧困者数の割合の減少がその要因だが、これは元々少ないので、相対的貧困状況などの現実が大きく変わった訳ではない。「課税及び再分配後の貧困率」は、引き続きデータが示されていない。
ゴール5(ジェンダー平等を実現しよう)も、前年の「現状維持」から「穏やかな改善」に変化した。これは「近代的な方法で家族計画ができている人の割合」が、前年より0.6点改善したことの反映だが、国会の議席における女性の割合は微減しており、また他の4つの指標に変化はない。
ゴール10(人や国の不平等をなくそう)は、前年は「悪化」だったが今年は「データ無し」に変わっている。これは、昨年以来新しいデータがないこと、具体的にはジニ係数は2008年、パルマ指数と老人貧困率は2015年のままであることが原因と思われる。
以上
引用・参考
<Sustainable Development Report 2021, DOI: 10.1017/9781009106559>
(SDGsジャパン共同代表理事 大橋 正明)
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