「Sustainable Development Report 2022」から見えるSDGsの世界と日本の進捗状況
6月2日、持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)とドイツのベルテルスマン財団は「Sustainable Development Report(持続可能な開発レポート)2022」を発表しました。日本は、昨年から1つランクを落とし、163ヵ国中19位でした。
「持続可能な開発レポート」は、国連の「SDGsグローバル指標」や各国の自主的な進捗評価を補完する目的で、毎年発表されています。データ分析の際に、経済協力開発機構(OECD)や国連食糧農業機関(FAO)などの国際機関による公式データや、民間の研究機関や市民社会による非公式のデータも活用することで、よりタイムリーな情報を発信しています。
各国のSDGsの達成状況を点数(スコア)で評価すると同時に、国別に順位付けしていることで注目されがちなレポートではありますが、「持続可能な開発レポート」の価値は、全てのSDGs目標を網羅し、国連加盟の193ヵ国のデータをSDGs策定前にも遡って分析している点にあります。
SDGsジャパンでは、「持続可能な開発レポート」の公開を受けて、SDGsジャパン共同代表理事の大橋正明(おおはし・まさあき)が、SDGsの進捗について分析と評価を行いました。
SDGsの世界と日本の進捗状況
今後一層の悪化が懸念される貧困問題
SDGsジャパン共同代表理事 大橋正明
1.昨年よりSDGスコアが後退する世界と日本
「持続可能な開発レポート」は、世界全体は2020年と2021年の2年連続でSDGsの達成に向かって前進せず、2021年のSDG達成のスコアは僅かに減少している、という、かねてから予想されたことだが、やはり衝撃的な事実を伝えた。
図-1にあるように、2015~19年にかけて世界はSDGの2030年までの達成には不十分だが、それでも毎年スコアは上げてきていた。ところが19~21年では世界全体で0.01ポイント減少し、特に低中所得国での悪化が大きい。この主な原因は、もちろん新型コロナ感染症の大流行によるグローバルな経済的混乱だ。
図-1:SDGインデックスの年平均スコアの変動 (2015-19年対2019-21年)
出典:Figure 2.2 | Annualized growth rate of the SDG Index Score (2015-2019 vs 2019-2021), Sustainable Development Report 2022
「持続可能な開発レポート」で日本の順位は昨年の18位から一つ後退して19位、スコアも79.8から79.6に、0.2減少した。ということは、SDGs推進に関して日本は、世界全体より後退していることになる。ただ日本より上位の18ヵ国の内9ヵ国が、日本と同じかそれ以上にスコアを落としていることには留意すべきである。
ちなみに、SDGインデックススコアが最下位を占めるアフリカ10ヵ国のスコアを昨年と比べてみると、マダガスカルだけがスコアを大きく下げているが、他の9ヵ国はいずれも僅かながらもスコアを挙げており、最上位国グループとは対照的だ。
この順位で昨年から日本を追い抜いたのは、ヨーロッパのラトビアとスペインで、ラトビアが22位から14位(スコアは1.1上昇)、スペインも20位から16位(スコアは0.4上昇)した。一方クロアチアが14位から23位に凋落し、スコアは1.6減少した。こうした結果、日本は3年連続で順位をひとつずつ下げており、その前の2018年、2019年の15位から大きく後退し、回復の兆しが見えないことが気になる。
なお、日本のSDGs達成度については朝日新聞社の北郷美由紀さんによる分析も参考されたい。また、日本政府のSDGs推進体制に関する課題と市民社会の役割について視点をいただいた。
朝日新聞社編集委員 北郷美由紀(SDGs担当)
SDGsによって照らし出された課題には、SDGsの文脈で対応する必要があります。つまり省庁横断で課題の克服に向かってこそ状況は改善し、ランキングの上昇にもつながります。ところが、政府の「SDGsアクションプラン」は各省庁の施策を目標ごとに仕分けしただけで、目標やターゲットから必要な政策を展開する発想になっていません。来年はSDGs達成に向けた国家戦略とされる「SDGs実施指針」の改定が予定されています。市民社会には声と提案を届ける役割があります。
*参考:朝日新聞社デジタル(2022年6月2日付)
2.貧困・飢餓・格差の状況
ここからSDGsの目標1(貧困)と目標2(飢餓)、目標10(格差)について、全部の目標の地域別の状況を示した図-2などを使って検討したい。
貧困はラテンアメリカ&カリブ海地域で悪化しており、貧困と飢餓は「顕著な課題」に直面している。ラテンアメリカ諸国の中では、特に600万人が国外に避難しているベネゼイラの貧困状況が悪化を続け、貧困と飢餓、そして格差において「重大な課題」に直面している。
図-2:地域及び所得別グループにおけるSDGダッシュボード
出典:Figure 2.8 | 2022 SDG dashboards by region and income group (levels and trends), Sustainable Development Report 2022 (一部和訳)
ラテンアメリカと同様に、オセアニアと小島嶼国、そしてサブサハラアフリカでも、貧困状況は悪化していないものの「重大な課題」に直面している。その下を見れば、それらの地域の多くの国が属する低所得国が、貧困も飢餓も「重大な課題」に直面していること、対照的に多くの先進国が属するOECD諸国や高所得国では、目標1の達成に順調に向かっていることが分かる。つまり巨視的に見ると、先進国と低所得国の間の格差の拡大が強く示唆されている。
目標10の格差を見ると、悪化している地域やグループはないが、改善しているところも見られない。「重大な課題」に直面している地域は、ラテンアメリカ&カリブ海、オセアニアと小島嶼国、そしてサブサハラ以南アフリカであり、これは貧困と飢餓で「重大な課題」に直面している地域と全く同じである。格差の傾向はデータがない地域やグループが多いが、「到達」となっているものも一つもない。
なお格差については、国際NGOのOXFAMがこのパンデミックによって一部の民間企業が大きな利潤を得た結果を、今年の5月に発表し、その深刻さを訴えている。
世界の富豪10人が所有する富は、人類の下位40%である31億人を上回る
上位20人の億万長者は、サハラ以南のアフリカの全GDPよりも多くの富を所有する
データ出典:OXFAM, PROFITING FROM PAIN (OXFAM international, 2022年5月)
また、日本の目標12(作る責任使う責任)の評価は昨年より下がり、最低評価となった。これについて、認定NPO法人環境市民の副代表理事の下村委津子さんよりコメントをいただいた。
目標12の課題と取り組み
環境市民 副代表理事 下村委津子
「深刻な課題がある」に新たに加わった目標12(つくる責任使う責任)。主な理由として電気・電子機器の廃棄量とプラスチックごみの輸出量増大があげられます。欧米ですすんでいる製品寿命の長期化にもつながる「修理する権利」や、そもそもごみにならない設計段階からの製品開発など拡大生産者の責任をさらに徹底するよう、関連した法制度の見直しで、3Rの優先順位に基づいた製造、販売、消費の実現が必要です。
(参考:環境市民ウェブサイト:電子かわら版コラム「保管期間は5年」)
3.今後の怪しい雲行き
「持続可能な開発レポート」が分析しているデータは、パンデミックの影響はかなり反映されているものの、今年2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻が始まる前のデータであるため、ウクライナ危機のSDGsの達成に対する負の影響は反映されていない。つまり、ウクライナ危機の影響が反映されたデータは、来年以降に反映されることになるため、来年もSDGsは進歩どころか後退している、ということが既に予測可能だ、ということだ。ロシアやウクライナからの小麦などの食料輸出が困難になることで、飢餓がアフリカなどを襲うことが、すでに公然と語られている。
パンデミックと今回の武力紛争などが今後続くことによって、貧困も飢餓も、そして格差も、現在よりも悪化することが十分予想される。日本の市民として、私たちはもっともっと大きな声で「誰も取り残さないSDGs」の推進を訴える時を迎えている。
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